単一細胞が示す「不可解な知性」:大腸菌の走化性と信号伝達の仕組みを解説
大腸菌は受容体で誘引物質を感知し、「ラン」と「タンブル」を切り替えて移動する。その切り替えは細胞内の信号分子CheYとそのリン酸化型CheY-pが鞭毛のロータに作用して行われる。
大腸菌などの単一の細胞は、走化性(chemotaxis)と呼ばれる仕組みで栄養分を探し求める。本記事は、個々の大腸菌が誘引物質をどのように感知し、信号伝達ネットワークを通じて餌の方向へ進むのかを解説している。
走化性による移動の仕組み
大腸菌は、受容体で誘引物質を「嗅ぎ」分けて進む方向を決める。鞭毛の尾を使って前進する動きは「ラン(run)」、ランダムな方向へ回転する動きは「タンブル(tumble)」と呼ばれる。

すべてのロータが同じ方向に回転すると尾が束になってコイル状となり、細胞を前進させる。一方、1つでもロータが他と逆に回転すると、コイルがほどけてタンブルが起きる。
大腸菌は状況がよいときにランし、そうでないときにタンブルすることで、誘引物質へ向けて蛇行しながら近づく。タンブルの仕組みがなければ、ランとタンブルの頻度や持続時間が不十分となり、大腸菌は餌を見つけられない可能性が高いとされる。
- 既定のランの長さは about a second である。
- ランは、タンブルより ten times 長く続く。
- 尾を制御するロータは half a dozen or so 存在する。
信号分子と適応の仕組み
信号分子CheYは、受容体複合体に接触した後にCheA によってリン酸化されてCheY-pになる。CheY-pはロータに対する親和性が強く、多くのコピーが1つのロータに結合するとスピンを逆転させ、タンブルを引き起こす。
受容体の構造変化によって、誘引物質の濃度が上がったことが検出されると、CheYからCheY-pへの定常的な変換が中断される。また、受容体の支柱がメチル化されると剛性が高まり、受容体のシグナル伝達能力が弱まる。
大腸菌に関わる主なタンパク質の役割は次のとおりである。
- CheA:CheYをリン酸化してCheY-pにする。
- CheZ:CheY-pを脱リン酸化してCheYに戻す。
- CheW:CheAを受容体に連結する。
- CheR:受容体の支柱をメチル化する。
- CheB:CheRが付加したメチル基を切り離す。
大腸菌は、誘引物質が増えたのか減ったのかを数秒前までさかのぼって把握しており、これが単純な化学的記憶として働く。Dennis Bray は『Wetware: A Computer in Every Living Cell』の中で、次のように述べている。
「典型的なシグナル伝達経路では、タンパク質は絶えず修飾と脱修飾を受けている。キナーゼとホスファターゼは、巣のアリのように休みなく働き、タンパク質にリン酸基を付加したり取り除いたりしている。」
— Dennis Bray
Alberts は、ヒトのタンパク質の 30–50% が共有結合したリン酸を含むと述べている。また、哺乳類の細胞は、どの時点でも数百種類ものタンパク質キナーゼを使っているとしている。
受容体の構造と分子の動き
アスパラギン酸受容体は、細胞膜に埋め込まれて アスパラギン酸 に結合する刺激特異的なタンパク質である。受容体は上から下まで約 350 angstroms、すなわち 35 nanometers の長さがある。大腸菌のセリン受容体は、6つの受容体からなる三量体の二量体とされる。

Falke は、化学感覚アレイについて、次のように述べている。
「要するに、化学感覚アレイは超高感度かつ超安定な生物の集積回路、すなわち感覚チップとして機能する。」
— Falke
Falke の評価とは別に、大腸菌は 5 から 6 種類の刺激特異的なセンサータンパク質を持つとされる。ヒトの鼻には数百種類の嗅覚受容体タンパク質があり、イヌには 1,000 種類を超えるものがあるとされる。
David Goodsell は『The Machinery of Life』で、細胞内の2つの分子が少なくとも1回ぶつかるまでに、平均して about a second かかると述べている。思考実験では、細胞を拡大した場合、タンパク質は 500 meters per second で移動し、水分子の幅は about an inch になり、大腸菌の長さは football field に相当するとされる。
筆者の見立て
- 走化性は大腸菌を無目的な腸内の害虫ではなく、精巧な物理的コンピュータとして捉え直すものだと解釈している。
- 走化性は、もっとも基本的な形の知能であると論じている。
- 走化性はシステム生物学の優れた事例であり、大きな成果だと論じている。
- 受容体のメチル化によって大腸菌が単純な化学的記憶を持つという考えは、強力でやや深遠なものだと論じている。
- 大腸菌が内部の化学的記憶を使う仕方は、原理的には脳の働きと大きく変わらないと解釈している。
- 適応を支える仕組みは極めて巧妙だと論じている。
- 極端な条件に対するヒトの耐性は、一部では同様の細胞レベルの仕組みに支えられていると示唆している。
- 大腸菌の受容体複合体を「鼻」と呼ぶのは、単なる比喩ではないと解釈している。
- 感覚が形状変化を通じて働く例として、視覚が最も好きな例だと論じている。
- 分子生物学は形状同士がぶつかり合う科学だと捉えるのが自分の傾向だと述べている。
- 大腸菌の受容体複合体は、ヒトの感覚器官の原型にあたるものだと解釈している。
- リン酸化の周期によってタンパク質量を調節する方法は巧妙なやり方だと論じている。
- CheY-pが ロータへの親和性を持つということは、非常に近づいたときに結合しやすいことを意味すると解釈している。
- ネットワーク図はプロセスのもっとも抽象的な見方を前面に出すため、部品を生きた全体として捉えたいと論じている。
- フローチャートやネットワーク図が多い生物学の発表は好ましくないと論じている。
- 部品を生きた全体として見ると、驚くべきことが見えてくると論じている。
この記事は元記事の事実のみに基づいて自動生成されました。
出典
- 媒体:jsomers.net
- 原題:the baffling intelligence of a single cell
- URL:https://jsomers.net/e-coli-chemotaxis/
- (Alberts、David Goodsell『The Machinery of Life』、BioNumbers ほか) の報道による